2022年9月11日、『漆恵 -Urushie-』 が産経新聞に掲載されました。
新しい「祈りの形」 商品化
横幅32センチ、奥行き23センチ、暑さ6.5センチのコンパクトな漆塗りの木箱。蓋を開くと、中には花立てや香炉、ろうそく立てなどに使うおしゃれなガラス製の仏具や数珠、仏画やお札などが収められている。創業240年の仏壇仏具製造販売「原田光明堂」(姫路市)が7月に発売した「漆恵」。仏壇離れが進む当世に新しい「祈り」の形を問いかけるこの新商品は、家業に入って10年余りを経た西銘寛子さん(34)が、熱い思いを込めて企画を主導した意欲作だ。
ただ小さいだけではない。この箱には、漆塗りはもちろん木地や金箔押し、錺金具加工、蒔絵といった仏壇作りの伝統技術が凝縮されている。老舗仏壇店の長女として生まれた。大学4年の就職活動中、8代目当主で父の原田真一郎社長(66)から「帰ってこないか」と声をかけられて入社。経理や接客などに従事してきたが、結婚・子育てを経て、「技術があれば仏壇のあるお宅に出向いて作業もできる」と、数年前からは金箔押しなど職人としての技術取得にも汗を流す。
江戸時代、姫路城の城下町として栄えた界隈。漆塗りが盛んだった影響で、かつては20以上の仏壇店が軒を連ね、高い技術で作り出される製品は「姫路仏壇」として県伝統的工芸品に指定された。しかし、家や家族のあり方、宗教に対する意識の変化などから需要が減少する一方、ホームセンターやインターネットで買える時代になり、一帯の仏壇店は激減。同社も最盛期には社員や専属職人ら合わせて20人以上を抱えていたが、今では半分に。それでも工房は職人らの熱気に包まれ、常時100点以上の仏壇を並べる展示場も圧巻だ。
新製品「漆恵」は、置き場所を選ばず、持ち運びも可能。蓋の表部分もさまざまなタイプの装飾が選べ、仏教意外のニーズにも応えられる。ただ、これをヒットさせたいというよりむしろ、「漆恵に関心を持った人が店を訪れ、本物の仏壇にも触れて欲しい」との思いを強くする。
「できるだけ多くの工程を学びたい」と西銘さん。と同時に、「姫路仏壇の文化と技術の継承に意欲を持つ職人さんがいればぜひ私たちに力を貸してほしい」との呼びかけも。かつては家族が集まる場の象徴で、手を合わせるとひと時は無心になれる。そんな大切な存在だった「仏壇」の復権を心から願っている。
2022年9月11日 産経新聞